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『世界は千里でひとつになる The World Comes Together in Senri』

海外子女教育情報センター(INFOE)発行 『月刊 INFOE』連載記事より


第8回 千里国際学園でのリサーチとプレゼンテーション−そのバックアップとしての図書館

図書館・総合科 青山比呂乃

 千里国際学園を初めて訪れた方は、まずは玄関を入ったところにガラス張りになっている広い吹き抜けの図書館があることに目が行くことでしょう。広さは約1000u。SIS/OIS合わせても生徒が700名もいない学校としては、かなり広い印象です。100席、つまり3クラスが同時に図書館で授業をしていて、さらに空き時間の生徒が1クラス分くらい、自由に勉強ができるような空間になっています。蔵書は現在59000冊。雑誌も100タイトル以上。どれも日英が半々で、仏独中などの第2外国語の本や雑誌も少々あります。OISには4歳から18歳の生徒がいるため、蔵書内容も幼児向け絵本や小学生向けの雑誌から、高校生のリサーチ向けの相当専門的なものまで多岐にわたります。

 個人利用の生徒に最近特に人気なのは、モバイルラボ。館内で生徒に個人貸出しているノートパソコンは、常に24台がフル稼働しています。というのも、授業で多くのレポートなどのリサーチの課題が出ていて、インターネットで調べたり、ワープロやプレゼンテーションソフトを使って、課題をこなすのが、あたりまえなのです。生徒は見つけた本や雑誌も含め、プリントしたインターネットの資料などを山積みし、文章を練っていることもあれば、カードに取ったメモを元にしたり、添削されたドラフトを手に、ワープロに向かっています。全ての授業がそのような手法を取っているわけではなく、図書館で数学や英語の問題集、古文調べや漢字ドリルに取り組んでいる姿ももちろんありますが、リサーチする、プレゼンすることがあたりまえの学校です。

 モバイルPCは教室貸出用も30台あり、PC利用専用のラボ3部屋が一杯の時は、普通教室にモバイルPCを持ち込んで、生徒一人一人にPCを使った学習活動をさせることができるようになっています。プロジェクタとPCを組み合わせて、教室で生徒が自分のまとめた作品をプレゼンテーションをすることもここ数年ますます盛んです。

 図書館は、こうした活動を可能にする場として、機能しています。単なる本の倉庫ではなく、読書の冊数だけを強調するのでもなく、問題集を解く自習室としてだけでなく、学園の授業・課外の活動を、そして学園メンバー個人の自由な探求を支える場として、さまざまな資料をそろえ、IT環境を整備維持改善し、必要に応じて授業へも個人へもアドバイスをしようと奮闘しています。日英それぞれに司書教諭が1名ずつ、さらに4名の司書が交替で、毎日8時から18時までの開館を支えています。さらには、図書館上階に、学園全体のコンピュータコーディネーターとITスタッフが常駐し、日々のトラブルシューティングから、長期的なIT計画までを図書館と密に連絡を取りつつ行っています。

 最近のIT機器を使いこなす学習活動の大本には、こうした機器が出てくる以前からのさまざまな取り組みがあります。SIS総合科が教科となったのは2005年度からですが、その中で行われている中1の総合授業「知の探検隊」は、1993年度から始まった「科学者・科学史プロジェクト」を引き継いでいる、SISが作り上げてきたプログラムです。SISの最初の学年の7年生の時点で、リサーチ・スキルの訓練を一通り行い、以降の学年で課される数々のリサーチ課題に取り組みやすくしよう、というのが出発点の授業です。

 当初は「基礎理科」の授業の中で、冬の1学期を丸々使って、1人の科学者について図書館を使ってとことん調べ、何冊もの本や雑誌記事やインターネットから10ページ以上あるレポートにまとめ、全員の前でその人物になりきって、自分の人生や業績を発表するというものでした。「知の探検隊」と変わった今では、1年間を通してリサーチやプレゼンのスキルを学ぶことになり、教科も理科から飛び出して、生活科学、国語、社会といろいろな教科教員がティームで行うようになり、さらに、プレゼンの部分も情報科の科目との連携を図ることで強化した結果、秋学期にまとめた10ページ以上のレポートが、冬学期にぎゅっと凝縮した10枚のスライドを使った5分間のプレゼンテーションと変身しています。

 さらに高校1年生(10年生)の1年間続く必修授業「比較文化」では、生徒一人一人が自分でテーマを設定、研究を重ね、秋から冬にかけては、1人が授業時間を1コマ使ってプレゼン、学年の最後にはレポートにまとめて提出します。SISの名物授業の一つです。学年が最大80名ほどだからできるといえますが、一人一人違うテーマを自分の興味関心で選び、追求する。せっかく調べて考えた、かわいい自分だけのテーマです、それをふさわしい方法で文章にまとめ、さらに効果的に発表する方法を学ぶときも、苦しくてもいろいろと自分で工夫していくようになります。ただ方法を学ぶのでなく、自分の中にある探究心を満足させ、それを人に伝えたい、と思うときに、方法論の学習も生きてくるのだと思います。

 高校生で英語レベルが上級の生徒が「やりがいがある」とよく選択しているMUN模擬国連の授業。文字通り、国連加盟国の代表となった生徒たちは、その国の利害をかけて国際会議に臨むために、会議で問題になりそうな現実社会の抱える様々な問題を分析し、必要と思われる基礎知識を調べ上げ、その上で、自分の国の立場でどのような議論を組み立てられるか、と準備しています。その際、もはや言語の違いはひとつの要素に過ぎません。日本語英語どちらの資料でも情報は入手。MUNの場合は、アウトプットは英語。例えば京都議定書の批准とCO2排出量の先進国と途上国間のやり取りなど、今国際問題になっている大人にも解決がつかない問題に、真正面から取り組み、いくつかの学校から集まったメンバーで最終的に行われる模擬国連の会議の場では、真剣な議論を重ね、本当に貴重な体験をしてくるようです。(詳しくは最近のインターカルチュアの生徒の感想をお読みください)

 こうしたハイレベルにまでいたる、様々な教科、学年、言語での調査研究発表の機会、それは、最初は、アメリカの小学校でもよく行う、show&tell程度の試みから始まっていますが、さまざまな授業のいろいろな場面で設けられています。そして、SISに在籍する最長6年間の中で比較文化などの大きなプロジェクトを経て、「何か疑問があったら、質問する」「自分の考えや意見を持って発言する」「自分で調べる」「調べたことは機会をとらえて発表する」ことが普通になってくるのです。つまり、「リサーチや発表は自分は苦手だ」という意識がある生徒でも、「勉強するには、時にリサーチや発表をしなくてはならない、するものだ」という“常識”を植えられているといえるでしょう。ときどき卒業生が遊びに来て感慨しています。「SISの常識って世の中の常識じゃなかったんですね」と。

 


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Senri International School Foundation, All Rights Reserved. Modified 2006/11/13