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『世界は千里でひとつになる The World Comes Together in Senri』

海外子女教育情報センター(INFOE)発行 『月刊 INFOE』連載記事より


第6回 授業紹介:英語科選択科目『バイリンガリズム』

アドミッション/英語科 井藤眞由美

「前までは、二つの言葉を持つことは自分にとってあまりにも当たり前で自然なことであらためて考えたことがなかったけど、この授業でいろんな方面から『バイリンガルとは?』を考えて、何よりも自分のことをよりよく知ることができた。」

生徒たちがこんなコメントを最後に残してくれるのが何よりうれしい、Bilingualismという授業を担当しています。今回はこの授業の紹介をさせていただきます。

これまでのこのシリーズで紹介しましたように、千里国際学園では、高校生になると学期ごとに生徒たち一人ひとりが授業を選択して自分の時間割を作ります。各教科で多様でユニークな授業が展開されていますが、英語科でもレベルごとに色々なジャンル・テーマの授業を合計約50種提供しています。Bilingualismという授業はこのたくさんある英語科の高校生向け選択授業の一つです。

先日INFOE編集長の松本先生が学園を訪問された折、たまたまこの授業を見学に来てくださったのですが、ちょうどそのときに行っていたのはShow&Tellでした。アメリカに在住の方にとってはおなじみの、現地校の小学生のクラスでよく行われる、あの、Show&Tell。この課題を告げたとき多くの帰国生の生徒が「懐かしいー」と黄色い声を上げた、あの、Show&Tellです。

海外での生活でいろんな土地に行くたび集めた思い出のキーホルダーコレクション。ホームステイ先のおばあちゃんが編んでくれた手編みのマフラーと靴下。オーストラリア時間に設定したままの腕時計。アメリカの陸上大会で入賞したときのトロフィー。20人以上の人のメッセージが書き込まれた大きなWalesの旗。ニュージーランドで友人にもらったマオリ族のネックレス。アメリカの小学校の校内大会決勝で辛くも負けた思い出の数学ゲーム『24』。などなど・・・自分の住んでいた土地や訪問した場所ですっかり自分の中に溶け込んだもう一つの文化。少し忘れかけていたかもしれないかけがえのない友情、思い出、家族愛などがよみがえり、みんなの感情が溶け合って、微笑ましい光景なのにどこかしんみりと胸に迫るものを感じる時間でした。

このShow&Tellは、第二チャプター『バイリンガリズムと社会』を扱う中での一つのアクティビティーです。日系アメリカ人Allen Sayの二冊の絵本を読み、『文化』『アイデンティティー』『時代に影響されるバイリンガリズム』などについて考えたあと、自分にとってのもう一つの文化を象徴するものを持ってきてそれについて語ろう、というものです。絵本の主人公MayにとってTea with Milkが生まれ育った国、アメリカの象徴であるように。生徒たちの持ってきたもののほとんどは日ごろ自分の部屋の壁や天井に吊るしてあっていつも目にしているものとのこと。絵本の中の一節、The moment I am in one country, I am homesick for the other. ということばは生徒たちにも強く共感できるところです。

二つの言葉を話せるってどういうことなんだろう。頭の中に心の中にそれらはどのように存在しているんだろう。自分にとって二つの言葉はどんな意味を持つのだろう。世界中にはどんなバイリンガルの環境があるんだろう。。。。。。そんなことを順序だって考察していく授業です。一学期を4つのチャプターで構成し、1の『バイリンガルの定義と測定』では、どういう人がバイリンガルと呼ばれるべきかを議論し、自分のバイリンガル度を測る実験などをし、バイリンガルとしての自分を語る小論文を書いて締めくくります。2は、先ほどお話した『バイリンガルと社会』で、仕上げには各自が世界のさまざまなバイリンガル事情から一つを選び、リサーチペーパーを書きます。3は『バイリンガリズムと言語学』4は『バイリンガリズムと教育心理学』。自分を知り、社会を考察したあとには、言語そのものに深く入っていき、人間の脳、心、というところにまで話を進めていきます。ちょうどこの原稿を書いている今、3の『言語学』にはいったところですので、まさに今していることを少し紹介させていただきます。

A:このあと二人何があるん?
B:え?
A: Where are you guys going?
B:あたしなあ、生徒会。だからThursday I’m gonna go to practiceやから。。
A: No, but why won’t you come around? 何時まであるん?
B:うーんけっこうする。だってなあ、I wanna go to practice on Thursday, but I mean I can’t miss 生徒会 for two days, right?

……………………………………………

これは、学校での生徒たちの日常的な会話の一部ですが、このような英語と日本語(ここではしかも大阪弁)を混ぜた会話は、アメリカ在住の日本人の子供たちの間でもよく聞かれることでしょう。二つの言葉を混ぜるなんて心配だ、と思われることもあるかもしれません。

チャプター3では、このようなバイリンガル同士(できるだけ自分を含む)の特徴ある会話を録音してそれを分析した小論文を書くのが課題です。

そこでわかることは、これらは単に言葉を『混同』しているのではなく、そこには文法的に説明できるメカニズムもあり、本人には無意識であっても必ず何らかの『目的』があってスイッチが行われている、ということです。これは一般にコードスイッチと呼ばれるもので、この会話をしている人たちは、もちろん日本語のみ・英語のみの会話をするべきときにはそれができる人たちですが、同じバイリンガルである人同士の会話になると、自分の中にバランスよく共存する二つの言語のうちのよりよく自分を表現できる方を細かい場面で選択し続けていることがわかります。本人にとっては無意識で自然に行っていることでもそれぞれのスイッチポイントに『目的』があることもわかります。

ある生徒はコードスイッチをこのように表現しました。

“……It is actually hard not to code-switch. It is like drawing a tulip with a green crayon in your right hand when you have red in your left. (コードスイッチをしないで話すのはつらいです。まるで左手に赤のクレヨンがあるのに右手に持った緑のクレヨンでチューリップの花の絵を描いているみたいな気分)”

日本語のみ・英語のみで話すべきときにはきちんとそうできるようにしていこう、と意識を強めつつ、バイルンガルである自分を楽しみ、より好きになれる。それがこの課題のねらいです。

SISの多種多様な選択授業の中には、この授業のように、これまでの自分の経験をふりかえることや、それを応用すること、意見を交わしあい、議論しあい、帰国生としての自分をより深く理解する機会にあふれた授業がたくさん用意されています。皆さんとも授業でお会いできる日があるとうれしいです。

最後に・・・極めて私的な思いですが。Bilingualismは、私にとってはサンディエゴ在住時に通った大学院での修論テーマ。実は、このような授業を日本で、英語を使って、高校生向けに担当させてもらえる場所があると知りSISの教員として働くことを希望するようになった、といっても過言ではないのです。一年に一学期だけ開講の授業ですが毎年この授業での生徒たちとの関わりから得られるものは私にとって貴重な財産です。皆さんもどうかアメリカにいる今の時間を大切に、Bilingualismを楽しんでください。


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Senri International School Foundation, All Rights Reserved. Modified 2007/05/12