『世界は千里でひとつになる The World Comes Together in Senri』 海外子女教育情報センター(INFOE)発行 『月刊 INFOE』連載記事より 第3回 千里国際学園の授業
教務センター長/理科 真砂和典 <学期完結制> あなたが日本に帰国してから必要なことは何だろう?どんな勉強をしたいのだろうか?それはあなたの将来とどのように繋がって行くのだろう?あなたが学んできたことを生かすにはどうすればいいのだろう?こんなことを真剣に考えて学習カリキュラムを作ったら「学期完結制」(Term Course System) というものができた。しかし、それは帰国生だけのためのものではなく、国内の一般生や留学を考えている生徒、更に、いくつかの科目を一緒に勉強している大阪インターナショナルスクール(OIS)の生徒達にとっても都合がよい。そして、日本の学校に足りなかった自律的な学習を進めるよい方法であるということも判ってきた。
本校が採用している授業システム、学期完結制は次の3本の柱から成り立っている。 これらの説明をしよう。 1.学期完結制では1年に3回の新しいスタートがある。9月に編入してきても、12月でも、もちろん4月でも、編入生が在校生と一緒に新しい学習を一から始めることになる。途中からの参加ではない。数学を例にとって説明しよう。数学Iをふたつに分け、どちらからでも始められる、IαとIβ、同様に数学Uを分けたUαとUβ、そして数学A、数学Bという、主に高校2年間で学ぶ数学の科目は毎学期開講されている。これらすべてが1学期で完結する授業になっていて、全生徒が自分の進度に合わせて、どこからでも、いつからでも勉強できるようになっている。詳しくは開講科目一覧という本をみてもらいたい。ここにすべての授業の内容が書かれている。授業担当者の名前もできる限り知らせるようにしている。このような本があること自体が授業を大切にし、個々の生徒の選択を尊重している学校の姿勢の表れだ。 2.自由選択制を活用し、高等部の生徒達は自分に必要な科目を組み合わせて1学期ごとに自分だけの時間割をつくる。これが帰国生にとってなめらかな学習の繋がりをもたらすことは十分に理解して頂けると思う。更に重要なのは選び取る能力を養うということだ。学期ごとに自分の学習を見つめ直し、それに連なる自分の将来をじっくりと考えながら学園生活を送るうちに、自分で自分の道を切り拓くという姿勢が育っていく。人に言われるまま、みんなと同じようにやっていれば無難に時が過ぎてゆくという、これまでの日本の学校や社会はもう行き詰まっている。 前に「上に進める大学がないからこの学校を選んだ。」という保護者の話を聞いたことがある。確かに私達は付属の大学を持つという形で生徒の将来を保証するのではなく、自分の将来を見つめ、自分で道を切り拓く力をつけるという方法で生徒の将来に関わりたいと思う。個性豊かな、自立した本校の生徒にとって、付属の大学は不必要なのだろう。それは卒業生の多岐に渡る進路によって証明されている。 3.海外校から来た生徒達に最も適合する授業が1学年の枠に収まるはずがない。日本人学校や国内からの生徒達も大変個性的だ。生徒ひとりひとりの個性を生かすためには、学年の枠を外す、無学年制が必要になる。幅広い選択肢の中から、取りたい授業を、取りたい時に、選ぶとしたら、それはもう横並びになるはずはない。同じ授業の隣の席に別の学年の生徒が座っているというのは一般の学校では非常に抵抗が大きいであろうが、本校ではこれを乗り越えた。日常の光景だ。多くの人々がこのシステムの意義を理解してくれたからだと思う。異質な他者との違いを認め、尊重し、受け入れ、学び合うという千里国際学園の理念はここでも生きている。この学校では授業以外でも学年を越えた交流が多く見られる。先輩後輩をそれほど強く意識しないで済む異年齢間の交流は兄弟姉妹が少なくなった現在では貴重な経験となるだろう。 このような授業のシステムによって帰国生が現地で苦しみながら身につけた力、自ら学ぶ姿勢や豊かな表現能力が更に磨かれていく。日本の多くの学校では積極性や自已主張は嫌われ、「おとなしく」みんなに合わせていくことを帰国生に強いる場合がしばしばあるが、千里国際学園では帰国生から学ぼうという姿勢が開校以来ある。そして、これらの帰国生が持ち帰る良さは日本の教育改革が目指している方向と合致している。 <少人数教育> 自ら学ぶ姿勢をサポートするという点も含めて、きめ細かな指導をするために私達が取り入れてきたのが少人数教育だ。ホームルームも授業も最大で24人までとなっている。教室がそのように作られている。数名で行うクラスもあるので、授業の平均生徒数は18人といったところだ。こうなると、生徒は受身ではいられない。教師は少人数の利点を生かした授業を展開するからだ。討論、論文、実験、観察を重視した授業によって基礎学力をしっかりつけ、表現力を引き出すことも重視される。はっきり言って生徒の負担は少なくない。十分に絞られる。校則で押さえつけられることはあまりないが、学習では覚悟しておいてもらいたい。だから、授業の量も自分で調整できるようになっている。これも学期完結制の特徴だ。 インターナショナルスクールも入れて700人くらいの、この小さな学校は家庭的な雰囲気に溢れている。ここ数年間の編入生達が春からの新入生のオリエンテーションを手伝ってくれた。登校日でもないその日に歓迎会を企画した学年があった。その、春の新入生達が秋の編入生のオリエンテーションのアシスタントになる、といった調子だ。私達は新しい生徒を迎え入れることに慣れている。環境の変化に戸惑った経験を持つ者が多いからだ。 <よくある質問> Q. 「どれくらいの授業がインターナショナルスクール(OIS)と一緒にできますか?」 A. 学期によって違いがありますが、OIS English(週4時間)、IB History(週4時間)、音楽(週2.5時間)、美術(週4〜5時間)、体育(週2.5時間)などがよく選択される授業です。Multi Media(週2時間)というYear Book作成や校内TV放送を担当するスタッフ指導の授業もあります。国語には一部の日本語の得意なインターの生徒が入ります。これらで半分以上の授業をインターナショナルスクールとともに過ごすこともできますが、実際には英語を中心に週4から10時間くらいをOISと過ごし、後は自分の興味や将来に備えるための授業を日本語で受けている生徒が多いようです。逆に、OISに入学するということもあり得ると思います。 Q. 「学校の説明はよくわかりました。では、先生はご自分のお子さんをここに入学させたいですか?」 A. え一っと、厳しい質間ですね。でも、大丈夫。実際に多くの職員が子供を通わせています。校長先生のふたりのお子さんはOISを卒業しました。前回この欄に登場した井藤先生も3人のお子さんがこの学校に来ています。 <生徒が活躍できる学校> 「これまでの学校は固定観念の塊。」偉そうにこう言う私も驚かされたことが最近あった。去年の4月に千里国際学園の中等部1年生に入学した私の娘が夏前にはバレーボール部に入り、冬からは、サッカー部に顔を出しているのだ。おとなしくて、引っ込み思案で運動部とは縁がなさそうな娘が、である。千里国際学園のクラブがシーズン制であることと、外国人コーチの心の広さのためか、全くの初心者でも気軽に受け入れてくれる雰囲気があるからなのだろう。私自身授業関係では教育改革の先端を見つめているつもりであったが、課外活動には目が向いていなかった部分のあったことに改めて気づかされた。 そういえば、同じく千里国際学園に在籍している私の息子が生徒会長に立候補して仰天したこともあった。この学校では、いろいろな所で多くの生徒が活躍している。そのような場がいたるところに設けられている。そこで自信をつけた生徒がまた新しいチャレンジを始める、という好循環がある。インターカルチュアという校内誌を一度見て頂くとその一端が判ってもらえると思う。 この学校のユニークさ、深さは私には伝えきれない。次の方にバトンタッチしよう。 Senri International School Foundation, All Rights Reserved. Modified 2006/04/10 |