『世界は千里でひとつになる The World Comes Together in Senri』 海外子女教育情報センター(INFOE)発行 『月刊 INFOE』連載記事より 第21回 千里国際の自然科学教育 自己紹介 理科教員 真砂和典 私自身は、本校の生徒とは対照的に、英語が苦手という理由で理系を志望した不謹慎な高校生でした。そのせいで今でも英語に苦しめられています。また、母校がこの数年でなくなってしまうという、教育界の荒波をまともにうけた者でもあります。出身の東京都立九段高校は千代田区立の中等教育学校に、また東京都立大学は移転、統合してしまいました。しかし、母校がないというのもまた、すっきりした気分でもあります。学歴にしがみついて生きていくのはいやだし、貴重な学生時代は私の中に厳然として生き続けているからです。 進路の実質 千里国際学園は英語だけが強い学校と考えている方は多いようです。「進路は英文科がほとんどですか?」という誤解もあるようです。ホームページ http://www.senri.ed.jp の進路情報を見てください。2006年までは合格者の延べ人数をよくある形で載せていましたが、この年から実際に卒業生が進んだ進路先のみを実数で公表することも始めています。2007年からは延べ合格者数という曖昧な数字の発表はやめてしまいました。ちょうどその後、2007年の夏に合格者数の水増しという問題がいくつかの日本の進学校で起こりました。 千里国際学園が進路の実数を地域、学部系統、領域、学科、学校などまで詳しく公表しているのは、進学実績だけを誇示して生徒を集めるためではありません。合格はしたものの、進路として選ばなかったところは公表していません。進路情報を出しているのは、この学校で学んだ生徒達がその学校生活の延長としてどのような道を選んで巣立っていったかを皆さんに知ってもらいたいからです。内部にいる生徒や教職員にとってはひとつひとつの進路がその生徒らしい、とても重い選択として響いてくるのです。大学名でひとくくりにされるようなものではありません。 理系への進学 さて、進路情報の内容にもどりましょう。卒業生は2006年から82、93、76人と帰国生の増減で年によってばらつきはありますが、毎年10名ほどが海外の大学に進学しています。その中の理系と日本国内での理系をあわせると10名、多い年でその倍くらいといったところでしょうか。卒業生の1、2割が理系に進んでいるということになります。一般的には少なめではありますが、その中味はやはり濃いものがあります。この一覧表から卒業生の顔や在学中の活躍が目に浮かんできます。過去には、授業とは別に自分で学校の実験室を使って研究を進め、大阪府学生科学賞を受賞した生徒もいました。たぶん、数学や理科の教員達は担任に負けないくらい彼らの在学中の様子を知っています。この「少数精鋭」の生徒に対して数学と理科合わせて11人の教員が指導してきたからです。少人数教育の千里国際学園の中でも更にきめ細かな指導がなされているのです。 数学の理系の授業は数学Vの他に、TA演習とUB演習ではレベル別にスタンダードとハイレベルが置かれ、VC演習まであります。スタンダードには文系の生徒も入りますが、それ以外は理系が中心になって少人数で行われています。理科の方は物理U、化学U、生物Uが理系のみのクラスです。3つに分かれた地学と環境をテーマにした授業もあって細かく分かれますから、理系が集まる科目は十人を超えることはあまりありません。それぞれの科目にある演習では数人というのが普通です。 2段構えの実験室 ここで化学室の写真を見てください。手前に教卓があります。写ってはいませんが、この更に手前にホワイトボードがあります。中央には白いテーブル付のいすがあり、その奥に8角形の実験台が5つ写っています。これが千里国際の実験室の配置です。中央のテーブル付いすで実験の説明を済ませてから後ろですぐに実験が始められるようになっています。実験の途中で生徒を前に集めてアドバイスや理論を伝えることもできます。物理室と生物室も同じように贅沢なつくりになっています。これ以外に地学室とプラネタリウムが理科専用の教室としてあります。しかし、インターナショナルスクールの教員も千里国際の教員も(合わせて9人ですが)授業は実験室で行うのが基本と考えているので、まだ実験室が足りません。もうひとつ小さな実験室をつくる計画を立てています。このような環境で実験や観察に重点を置いた体験型の授業が展開されています。 体験型の理科教育 帰国生にとってこの学校の理科はどのようにプログラムされているのでしょうか。この記事の第3回に「千里国際学園の授業」として高校生の授業選択を帰国時の進度に合わせることができるようになっているという説明をしました。今回は中学生についての工夫をお知らせしましょう。海外で行われている理科の授業は数学に比べてかなりばらつきがあります。小学校での基礎知識として確実な事項はあまり多くありません。また、日本国内を振り返れば、理科離れが叫ばれて久しくなります。しかし、理科の強みは自然が対象であることと実験や観察はそれぞれのレベルで深めていくことができるということです。そこで、7年生(中学1年生)の授業は少人数制を活用して大胆な体験型を打ち出しています。次の文章は秋学期の成績と一緒に送られた授業紹介の一節です。 「この授業は自然科学に対する興味や関心を引き出し、理科が大好きになってもらうことを目標にしています。そのために教科書にはこだわらず、基礎から徹底的に体験していく方法をとっています。初めにひとり一台の顕微鏡を自由に使いながら取り扱いを学び、いろいろなものを観察しました。今学期の最後近くの授業では、未知の物質を知るための融点測定をしましたが、まず10月中旬に、マッチのすり方の練習から始めました。ガスバーナーを使いこなせるようになるまで使い、ガラス細工でいろいろなものを作りました。そして、ガラスの極細試験管を自分で作り、そこに試料を入れて融点を測定する実験をしました。事前に用意された器具やマニュアルに従うのではなく、自分で準備し、完結させて得られる達成感と自信を重視しています。みんな熱心に、しかも楽しみながら取り組みました。ご家庭でも是非レポートのファイルを見ながら何をしていたかを聞いてあげて下さい。」 その後も実験や観察を多く取り入れながら9年生の秋学期までに中学理科の範囲を終えます。選択によっては、9年生の最後の学期(冬学期)に高校の生物や化学の内容を始めることもできるようになっています。 千里国際の生徒達は英語が得意なだけではなく、英語を使って何をしようかということを考えています。 Senri International School Foundation, All Rights Reserved. Modified 2008/12/01 |