Senri International School (SIS)

研究紀要

第6号(2001)


本校の教育と学期完結制

大迫弘和
SIS校長

§1 exodus

 …・・集会では、学校側にどういうことを認めさせようとしたの?
 「カリキュラムと教師を生徒が選べるようにしたかったんです」
 とヨシダ君が答えた。
 (村上龍『希望の国のエクソダス』)

 時代を感度よくとらえる現代作家の一人である村上龍氏が「引きこもり」の青年を描いた作品『共生虫』の後に、単行本として発表したのが、80万人の中学生が集団不登校を始め、彼らがインターネットとITを駆使して連帯組織をつくりあげていく『希望の国のエクソダス』である。氏は、その関心を「教育」に向かせはじめる中、おそらくは今後の日本の教育のありうべき形への具体的ヒントとして、中学生に、このように語らせている。

 更に「…・・生徒が教師を選ぶなんてことも、たとえ三光年の彼方まで行ったって、不可能。」とも。

 しかし、千里国際学園中等部・高等部は、2000年というこの段階で既に、村上龍氏が「たとえ三光年の彼方まで行ったって、不可能。」と書いたことを実現しようとしている。

§2 はじめに

 千里国際学園中等部・高等部(略称SIS)は1991年4月、大阪府箕面市に開校した。(開校当時の学校名は大阪国際文化中学校・高等学校、1999年4月に千里国際学園中等部・高等部に校名変更)。

 本校の設立の経緯については本校「研究紀要 4号(1996年7月)」に収められている『学園の設立の経緯と教育方針---関西の国際化への期待を担って』に詳しい。これは開校時より1998年3月まで初代校長を務められた藤澤皖氏によって書かれている。

 本稿では同氏が2000年9月に本校保護者会フォーラム委員会の求めに応じ本校大会議室で行った講演「多文化社会を生きる人間像を求めて」のレジメを以下に引用し、本校の「基本的役割」を確認してみたい。  

T.目標とする人間像

1. 日本人(あるいは○○○人)であると同時に地球市民としての自覚をもっている人
 地球社会の中での生き方を考えられる人
2. 多様な文化(言語、考え方、慣習、宗教など)の存在を理解し、かつ独善的ではない自己の生き方をもっている人
 自己の文化のみにこだわらずに柔軟に考えることが出来、他からも信頼される人
3. 国際的コミュニケーションができる人
 どのような人とも対等な意識で対話ができる人
 論理的に対話を進められる人
 少なくとも国際共通語としての英語でも対話ができる人

U.教育の課題

1. 自主的判断能力の育成
 自分をとりまく集団(家族・学校・地域・日本人など)の考えにとらわれずに思考する習慣を身につけ、自主的な判断力を育てる。
 規則や指示の多い管理教育はしないで、本人の自覚による行動を尊重する。
2. 異なる文化をもつ人への理解と共感を深めること
 帰国生徒、外国籍の人々との交流を深めながら、その文化的背景をなどを理解させる。さらに、積極的に多様な文化を学習させる。
3. 差別についての問題意識を持たせること
   国内─同和問題、在日アジア人への意識、性差別など
   グローバル─人種問題、民族問題、宗教問題、難民問題、貧困問題、識字問題など
4. 地球環境の保護についての認識を深めること
   開発と環境保護の関係について洞察できる力を養う。
5. コミュニケーション能力を向上させること
  充実した言語学習
   日本語─自分の第1言語はしっかり身につけさせる(思考力と関係)
   英語─事実上の世界共通語として使用できるように学習させる
   その他の言語─その言語を使用している人達との友好を特に深めることが出来る
文章にしろ相手の話していることにせよ的確に理解する力と態度の養成
  自己の意思も的確に表現出来る力の修得
6. 人間として生きる自覚を持たせること
Learn to be.(「ユネスコ21世紀教育国際委員会報告」より)
   LEARNING: TREASURE WITHIN
Learn to know. Learn to do. Learn to live together. Learn to be.

V.千里国際学園の教育

1. 学園をミニ国際社会とする
@ 新国際学校(一般生徒、帰国生徒、外国籍生徒が共に学ぶ)とインターナショナルスクールとの共同学校
A 多文化の交流による自文化の相対化と多様な価値観の理解につなげる
2. 自立的人間を育成し、自ら学習する力を養う
@ 小人数教育により個人を尊重、詰め込み教育管理教育を排する
A 実験・調査・レポートなどを重視し、自ら思考し表現する力を養う
B 図書館・語学学習センターなどを整備し、自由に学習する時間を与える
C 専任カウンセラーもおいて個人の悩みや相談に対応できる態勢をとる
D 校則をなるべく減らし、5つのリスペクトを重視する
  (Respect for Self, Others, Learning, Environment, and Leadership/Authorities)
3. 国語(日本語)力を充実させ思考力と論理的表現力の向上を図る
4. 英語力については読解力はもとより表現力・聴解力・会話力の向上に努める
  また、個人差が大きいのでレベル別のクラスを編成する
5. 日英バイリンガルの学校生活を目指す
@ 音楽・美術・体育・コンピューターなどの教科は、インターナショナルスクールとの合同クラスを編成し、同一教員(英語または日本語)による授業を行う
A 放課後のスポーツや学校行事はなるべく両校が合同で行う
   スポーツデー・ミュージカル・コンサート・リサイタル・ドラマなど
  生徒会もなるべく合同で活動する─学園祭・ダンスパーティーなど
B 教員も合同教員会議を定期的に開く
6. 国際理解教育・人権教育の推進
@ 日常的に国際交流を行い、多様な人間しかし同じ人間であることを認識させる
A 世界人権宣言の尊重を入学時に宣誓させ、その内容についても随時学習させる
B アウトドア教育(キャンプなど)を定期的に行い、自然環境の尊重と年長者と年少者の相互協力の必要を認識させる
7. ボランティア活動の奨励
@ 学園や地域の社会の中で積極的に自らの役割を発見させ行動できるように助言する
A グローバルな社会の中でもどのような役割を果たし得るか、考えさせる

以上が藤澤氏のレジメである。(一部省略)
 〔なお、別に藤澤氏の著書『はばたけ 若き地球市民』(アカデミア出版会)には更に詳しく本校の教育目標が記されているので、ご参照願いたい。〕

 千里国際学園中等部・高等部の10年の歩みは、上記の内容の実現をめざし、そして、それを基本的には相当程度実現してきた歩みであったと、自信をもって言うことが出来る。

§3 responsibility

 出発の10年は、あらゆる世界において共通であるだろう、ものごとを立ち上げる、といった事に付随する、その機ならではの労苦といったものは、勿論あった。しかし、そのような辛い時期をなんとか乗り越えつつ、時間の流れの中に、開校準備段階あるいは黎明期といった時期には見えなかった「私たちの学園の更なる可能性」あるいは「役割」といったものが見えてきたのは確かである。
例えば、文部省から研究委託を受けた新国際学校教育研究調査会が1989年3月に作成した報告書『新国際学校に関する研究』は、本校の「帰国生徒、外国人生徒、国内一般生徒が共に学ぶ学園」という基本構造を示すものであるが、実体的にはこの「帰国生徒、外国人生徒、国内一般生徒が共に学ぶ学園」といった構造は、千里国際学園中等部・高等部が単体で実現するよりもっと深い形で、同一キャンパス内の大阪インターナショナルスクール(略称OIS)との共存によって、それは実現される、という風に現在は考えられている。

 一条校であるSISとインターナショナルスクールであるOISとのジョイントプログラム、それ自体が、勿論日本で初めての試みである。
財団法人海外子女教育振興財団が発行する『帰国子女のための学校便覧』の仕分け(高等学校)によると、
  A−T群 帰国子女の受け入れを主たる目的として設置された高等学校
  A−U群 帰国子女の受け入れ枠を設けている高等学校ならびに特別な受け入れ体制を持つ高等学校
  B群 帰国子女の受け入れに際し、特別な配慮をする私立の高等学校
ということになっており、この「A−T群 帰国子女の受け入れを主たる目的として設置された高等学校」は現在日本には5校のみ存在する。(東京学芸大学教育学部附属高等学校大泉校舎、国際基督教大学高等学校、南山国際高等学校、同志社国際高等学校、そして千里国際学園高等部)
これらA−T群の学校はそれぞれ「帰国子女の受け入れを主たる目的として設置された高等学校」としての様々な教育的な工夫を行っているわけだが、これら5校のうち、もっとも新しく開校した本校は、大阪インターナショナルスクールとの合同という日本で初のダイナミックな構造をその基本的枠組みとしつつ、1学級平均18.5名(2000年9月段階在籍生徒数中高388名、学級数21学級)という徹底的な小人数教育を実施しているという点において、他の先行4校と、際立って異なる教育を展開している。

 一条校であるSISとインターナショナルスクールであるOISとのジョイントプログラムは、正に前例のないことであり、それゆえの困難に多々巡り合うのではあるが、同時に、そのような困難な歩みの中、本校は、「帰国生徒、外国人生徒、国内一般生徒が共に学ぶ学園」というものを二校の中で実現していくという、いうなれば「一校二制度」という形を本校がどうより深く実現させていくか、という開校時にはある意味イメージでしかなかった事柄を、現実的な課題として捉えることが出来るようになっていったといえる。

 そして、§2の藤澤初代校長のレジメにある、例えば「規則や指示の多い管理教育はしないで、本人の自覚による行動を尊重する」あるいは「個人を尊重、詰め込み教育管理教育を排する」そして「実験・調査・レポートなどを重視し、自ら思考し表現する力を養う」、「図書館・語学学習センターなどを整備し、自由に学習する時間を与える」、「専任カウンセラーもおいて個人の悩みや相談に対応できる態勢をとる」、これらのひとつひとつが一校が抱える課題としてはそれだけで十分な重さがある。それを本校は一挙に実現しようとして10年を歩んだ。

 それらの課題に必死に答えを出そうとした10年であったのだが、学園全体としては、幸福なことに、高い社会的評価をいただいている。それは奇跡に近い様にも思えるが、じつは、この「成功」は、なにより学園の主役たる生徒諸君の、柔らかな感受性と思考力、素直な性質と強い向上心、によって、かろうじてあり得たものであった。

 本校の壮大なプランを支えてきてくれた生徒たちの豊かさ。彼らのような生徒が集まってくれている以上、この学園は、様々な可能性に満ちた場所として存在し続けよう。

 これは、逆に言うと、学園は、ここに集う生徒がどのような生徒であるか、開校前にはこれもまた一つのイメージでしかなかったものを、私たちの取り組みに対する彼らの反応から、現実の形で認識できてきたことを意味する。そして、学園の目標が、他の誰のためでもない、目の前のこの生徒たちのために実現されること、そこに私たちは自ずと焦点を絞りはじめた。

 ここに集まる生徒はどのような生徒で、どのようなことを求め、どのように悩み、そんな彼らに対して私たちができることはなにか?ここに学ぶ生徒たちに対する適正なresponseを行うことによる学校としてのresponsibility。それが「学期完結制」の「根本」であると考える。

§4 プロセス

 「学期完結制(Term Course System)」と本校で呼んでいる「履修の仕方における工夫」の具体的な検討が始まったのは1996年度であった。それまで、その下地と位置づけてもよいさまざまな議論が、校内で、既に開校まもないころから行われていた。それは「授業の提供の仕方(時間割、学期の切れ目等)」といったいわばハードの問題と、「どのような授業が提供されるべきか」といったソフトの問題の二様であったと言える。前者の議論については、 1991年の開校時において、「モジュラーシステム」という米スタンフォード大学教育学部で発案されたシステム(一日を15分刻みにし、6日サイクルで授業を回していく)を本校は採用したのだが、それをSIS/OISの二校体制という本校の複雑さの中で運用していくことが極めて難しかった、というところに出発があった。(モジュラーシステムの運用の難しさの原因として、他に教授方法、教材、学校サイズからの教員数等があった。)後者については、学校というものが、ある意味、その役割を意識化していくために、その折々に、生徒の様子を見ながら、自然発生的に行う議論、と言える。そうであるなら、この議論に、終着駅はない。この下地的な議論についても、本紀要に真砂教諭が詳しく書いているのでそちらに譲ることとする。

 さて、1996年度、校内組織としての「教育政策委員会」(校長の諮問機関、委員長大迫)が組織され、97年度5月、この「教育政策委員会」により「学期完結制(Term Course System)」についての答申が校長に提出された。1997年度、6月1日の職員会議において、全校方針として、この「学期完結制(Term Course System)」を採用することが決定され、各教科が必要な具体的作業に入った。この年度をもって校長の役を去られた藤澤氏が、98年1月に行った保護者会で、退任の挨拶に加え、初めてこの新システムについて触れられ、大迫(当時教頭)が、その概要について説明を行った。

 1998年度、福田國彌学園長が校長を兼任され、本システム確立のための陣頭指揮にたたれた。平尾(当時教務部長)、真砂、大迫(当時副校長)の3名により、教務内規上の問題の詰めその他の検討が、年間50回を越える回数の打ち合わせによって進められた。この間の事情については、本紀要において平尾教頭が書いている。

 「学期完結制(Term Course System)」の実施の為の基礎的な条件として、OISと授業日数及び学期制を揃えなければならなかった。 1998年4月にSIS (当時校名は大阪国際文化中学校高等学校)は3学期制をスタ―ト、OISはこの年、6月11日にその年度を終了し、9月から3学期制をスタートさせ、ここで春、秋、冬の3学期制及び授業日数が揃った。(OISはこれに伴いそれまでの6月中旬授業終了をやめ、99年の6月は6月30日までの授業を実施。このようなカレンダー上の一致を校内では「コモンカレンダー」と呼称していた。)

 98年度は生徒に対しては勿論繰り返し「学期完結制(Term Course System)」についての説明を行ったが、保護者に対して、また、学校事務職員に対して、さらには学校を支援する株式会社阪急電鉄に対して、説明を行い、理解と協力をお願いした。校内誌であるインターカルチュア第59号(98年10月)、第60号(98年11月)、第61号(99年2月)、第62号(99年3月)と、大迫が「学期完結制(Term Course System)」に関連する記事を掲載した。ここでは第59号(98年10月)と第62号(99年3月)の記事の一部を紹介しておく。

〔インターカルチュア第59号より〕

 福田先生から「99年度以降のカリキュラム」について現在決定している大枠の紹介がありました。本件は今年1月の保護者説明会でもその方向性は示されましたが、今回「180日3学期制」「一日の時程のOIA/OISの完全一致」「学期完結制の科目履修」の3点が具体的に示されました。当日の最大テーマのカリキュラム問題について、福田先生の概説を受け、そのあと大迫の方からさらに細かな説明をさせていただきました。今回のカリキュラム改革が「生徒一人一人を大切に」という本校の大切な基本精神のカリキュラムとしての実現を目指したものであることをご理解いただきつつ、大迫の説明は最もわかりにくいだろうと思われた「学期完結制」について中心的に行われました。「学期完結制」とは「ひとつの学期ごとに科目履修を決めていく」というやり方で、学習の上での切れ目が、春学期、秋学期、冬学期の年3回できるシステムです。この文章の後に、当日お配りしました資料を掲載いたします。これをお読みになられ、ご不明の点が少しでも明らかになりますなら幸いです。

 学園の教育の根幹にかかわることがらです。冬学期にいま一度説明会を持つ予定です。それまでの間、もしご不安等ございましたら、大迫まで、どうぞいつでもご遠慮なく、連絡下さいますようお願いいたします。心を尽くしてご説明申し上げる所存でございます。

 なお、当日、ご出席いただきました皆様から、学園をサポートするためにこそ学園の今をより深く理解しておきたいのだ、という熱い想いを感じ、なんともうれしく、また、心強く思いました。世間ではときとして、保護者が学校を、教員を、糾弾することが目的で集まるような保護者説明会があるや、とも耳にするのですが、OIAでは「保護者=学校間の理解形成の場」としてこのような時間が持てますことを、特に私学としての「保護者=学校関係」を考えるにつけ、本当に幸福なことと感謝いたしております。

 以下9月11日 保護者説明会 配布資料を掲載します。

<9月11日 保護者説明会 資料>

 生徒から実際に出た質問をもとに、99年からの本校の教育を具体的に理解していただくためのQ&Aを作成してみました。

Q「学期完結制と今までの一年通年制と、どう違うか、わかりにくいのですが?今も、学期ごとに成績をもらって、勉強に区切りはあると思うのですが?」
A「確かに今も学期ごとに成績は出ていますね。でも、単位は一年単位でしか与えられませんでしたから、4月に勉強を始めた科目は3月まで勉強しました。学期完結制では学期で単位が与えられますから、学期ごとに自分の勉強する科目を変えることができます。
 例えば4月から6月までの春学期に数学を履修していた生徒は、9月からの秋学期に、数学を勉強し続けることも、その時間に数学の授業を履修せず他の教科を履修することもできるようになります。」

Q「学期ごとに科目が変わってしまうと、積み重ねの必要な科目の勉強が、できなくなりませんか?」
A「科目選択の時に、先生と相談しながら、必要な科目、興味のある科目を選び履修を決定します。自分にとって必要な科目は春学期・秋学期・冬学期と、ずっと履修することが出来ますので、その点は心配ありません。」

Q「私は今11年生で、来年の4月に12年生になります。最後の学年なので、来年1年間の様子をもう少し教えていただけますか?今まで10年生11年生とほとんどアンスケ(授業のない時間)なしでたくさん授業をとってきたのですが、来年はどのようにしたらよいでしょうか?」
A「4月に履修した科目が6月に単位認定されますから、9月からの秋学期ではいろいろと履修科目を考えるとよいでしょう。あなたの場合は6月までに卒業に必要な単位数(80単位)をかなりとっていることになるでしょうから、9月からの履修は卒業後の進路を考えつつ、余裕のあるスケジュールを立てることもできると思います。こういったことが学期完結制の中では可能になります。」

Q「私は今10年生です。来年の春は何年生になるのでしょうか?」
A「春学期から11年生の学習が始まります。学習におかしなすきまは生じません。」
【補足説明】学習の進みかたとは別に、学校生活の基礎集団としての学級について、当面9月に編成替えを行います。これはOIA/OISが合同で動きやすくするためのひとつのサイクルづくりであり、学習の上での学年進行とは、別のものと考えてください。

Q「『無学年制』ということばも耳にしましたが?」
A「これまでも英語、国語、数学においてはそれぞれの学力に応じ、学年の標準より難しい学習、易しめな学習を設定してきました。そういった意味では学年を考えない『無学年制』的な授業はこれまでも行ってきたと言えます。99年からは、学期ごとの科目選択の中で、自分の学力にあった科目を今まで以上に丁寧に選べる、ということになりますから、学年を考えずに、すなわち、無学年制、という形での履修は、いっそう進むでしょう。」

 【補足説明】 学期ごとの科目選択において、学年相当のレベルの学習をごく自然の流れの中で履修していくケースが、とくに中学からずっとOIAで学習している生徒の場合は多く見られると考えられます。途中編入生の場合は、それぞれOIAの学習を開始した時期、その時の学力等の要素から、適当と思われるクラスを、学年をあまり考えずに、履修することも出来ます。『無学年制』ということばは、科目履修の自由さ、という意味です。学年は、学級編成の時期に関係なく、毎年一つずつ上に上がるのはいうまでもありません。

Q「OIAとOISの授業の関係は今後どうなりますか?」
A「これまで合同であった科目以外に、いろいろな可能性を研究しています。一日のスケジュール、一学期間のスケジュール、一年間のスケジュール、今回、すべてを二つの学校で完全一致させましたので、授業における合同が、実現しやすい条件は整いました。」

Q「新しい制度はどうしてもどこか不安なのですが?」
A「インターナショナルスクールとの合同、というのも日本でひとつだけですが、今回の『学期完結制』を核とする学習スタイルも、日本でただひとつのものとなります。生徒一人一人を大切にする、ということをテーマに、OIAが今、文部省がもとめている未来の日本の教育のあり方に対し、具体的な形を、日本全国の他校に先駆け、実施します。そのような学校で学習できることを、どうぞ、誇りに思ってください。学校としては、皆さんがたが、安心して勉強をしていけるような環境を必ず作りますので、どうか信頼してついてきてください。」

〔インターカルチュア第62号より〕

 「大阪国際文化中学校・高等学校」
 さようならにはつきものの少し抒情的な思いがあります。
 8年という年月が過ぎていきました。高等学校の卒業生はこの3月に卒業していく皆さんを含め386名になりました。
 小さな、そして確かな歴史。
 小さな歴史を見つめつつ、この学校に関わったすべての人たちとともに、一つのさようならと一つの誕生を、喜びをもって迎えたいと思うのです。

 「千里国際学園中等部・高等部」
 玄関のプレートも春休み中に変わります。新しいプレートが、朝日を受けて、キラッと光るのを、楽しみにしています。

 2月8日、12日の保護者説明会には多数のご参加をいただきましてありがとうございました。会の目的は2月に進行しました99年春学期の科目履修にあたって、ご家庭からも、お子様に対して必要なアドバイスができるよう、今回の改革の原点から具体的内容までを説明させていただくことでした。初めて実際の時間割を示させていただきました。そして『Course Descriptions』を開きつつ、授業の内容についても、正式に公開させていただきました。

 履修希望人数が多くなった場合の対応(1クラス予定を2クラスにしたりという柔軟な対応も考えていますが、場合によっては次の学期まで履修を待ってもらうことはありえます)、先の学期までの予定を立てながら履修を決定する中で一旦示した先の学期の履修について変更はどの程度可能なのか(一人一人の状況を丁寧に見ていく中、必要なものは認めていきます)、といったような皆さんが共通して心配なさっている点について、質疑応答の時間に質問が出ました。このように皆さんが共通して抱いていらっしゃるだろう疑問につきましては「Q&A集」を作りますのでお待ちください。

 今回の説明会の目的が、生徒の履修の助けのために、ということでしたので、当日出席できなかった保護者の方で、お子様の履修にご不安をお感じの方は、担任、コースアドバイザー(99年4月より)真砂先生、あるいは私まで、どうぞ直接ご連絡ください。

 今回の改革、ひとまず、予定通り、生徒の一人一人にとってよりよい学習環境を提供する、という目的を、形としては、実現しました。形が出来上がった中、丁寧な履修指導を通し、この制度が本当に生徒ひとりひとりにとって有意味なものとなるよう全力を尽くすこと、一つ一つの授業の内容充実のために全力を尽くすこと、という新しいステージに入ったと、実感しています。

 この間、できるだけいろいろな機会を通して、今回の改革についてお話をしてきたつもりです。もちろん、力足らずで、なかなかうまく趣旨をお伝えできなかったところも多々あったかとも思いますが、今は、生徒のみんなも、保護者の皆様も、この制度を理解してくださり、いかにそれを生かしていくか、という風に取り組んでくださっていることを嬉しく思っています。保護者会は今回の改革に合わせ、これまでの「クラスマザー」を「学年委員」という形に変える、という決定をしてくださいました。このような決定が、私たち教員に、なんという力を与えてくださることでしょうか。本当に感謝しております。

 生徒も、この一月、これまで以上に、自分の科目選択について、各先生のところへ、相談に行っているようです。
 「そういえば、この学校で、先生のところへ相談に行ったとき、断られたようなことって、全然ないね」
そんな嬉しい言葉を耳にしました。

 理想と志を持って歩みたいと思います。それなくして、教育なんてありえないのですから。

 このようにして1999年度、「学期完結制(Term Course System)」スタートの年度を迎えたのである。99年度春学期、SISはこのシステムの移行的スタートを切り、6月30日にSIS/OISが同時に春学期を終了という、9年目にしてやっと至った枠組みの一致を見た後、9月に「学期完結制(Term Course System)」の両校本格スタートとなった。(なお、本校の3学期制は、それぞれの学期を春学期、秋学期、冬学期と名称する。1学期、2学期、3学期と呼ばないのは、全ての学期が1学期的な要素を持っているためである。)『インターカルチュア』第63号(99年5月)の記事は次のようであった。

〔インターカルチュア第63号より〕

特別な春

 「私が**からの帰国生徒だと分かると、その国について色々尋ねてくれる。それはそれで嬉しいのだけれど、ふと気がつくんです、質問はその国のことばかりで、私のことはなにも聞いてくれていないなって。」
この学園で出会うこのようなことば。今までも私なりに大切に大切にしてきたつもりですが、そのような姿勢だけは、これからも、何があっても失うまい。

 千里国際学園中等部・高等部という新校名のもと、学園は9年目の歴史を歩みだしました。この春は学園にとりまして、学期完結制、という学習の形における画期的な取り組みをスタートさせる、特別な春でもあります。

 「ね、あなたは英語はどのクラスにしたの?」
 「私はLL2。あなたは?」
 「LC9をとることにしたの。どんな授業かな、楽しみだなー。」
 「そうね、なんか、わくわくするわね。」

 生徒それぞれが、正に学園が望む形で、即ち、友達が取るから自分も、といったレベルの選択でなく、自らの自立的な判断に基づき科目を選択しています。正に、SISの生徒のよき文化があって初めて成立していくシステムであると、あらためて思うのです。そして同時に、生徒の「わくわく」に十分応えられるような授業を提供していかなければならないと、深く責任を感じるのです。

 99年度、SIS教員の年間目標として「授業充実」を最初に掲げております。更に「コースディスクリプションへの取り組み」「『5つのレスぺクト』教育の推進」というあわせて3つを本年度SIS教員の取り組み目標といたしておりますことをお知らせします。
 校内各校務分掌がどのような仕事を進めているかといったお話も、『インターカルチュア』本号の「進路情報室」のように、進めていく予定です。

 家庭―学校の協力関係の中でSISの教育は育っていきます。家庭―学校の協力関係の基礎になるだろう基本的コミュニケーションに、可能な限り心を配っていきたいと思います。
その一環として持たせていただきました4月9日、23日の「新入生・編入生の保護者の皆様のためのペアレンツ・イブニング」。例年どおり多くの出席者を得る事が出来ました。お忙しいところ皆様ありがとうございました。

 4月20日付け文書でお知らせしましたように高等部3年生の下校時間に関して新システムをスタートさせました。音楽の授業の状態改善のため授業助手の採用(春学期)も決定しております。(本原稿執筆時の段階でまだよい人が見つかっておらず募集を引き続き行っています。)与えられた条件の中で、可能な改革を、一つずつ、一つずつ、と思っています。

 お子様にどれだけの期待を寄せていらっしゃいますか?

 「我が家は子どもには勉強のことも何も言わず、自分の人生なのだから、親からは期待を押し付けたりしないようにしてるんです。」

 でも、それでは、やはり、子どもは少しかわいそう。もちろん過度の期待は子どもを圧迫するだけの結果になるでしょうが。

 親というものは、赤ちゃんのころから、ずうっと我が子を見つめてきて、そしていつか自然に「その子にちょうどよい大きさの期待」というものに気づいていくものなのではないだろうか、と、そんなことを思っています。

 私の父母も、そうであったように、いま、ふと、気づくのです。

 「ちっちゃな体で、幼い頃は病気ばかりしていて、ただ知的好奇心のようなものだけはずいぶん強そうな」そんな子を我が子として持った私の父母の思いを、ふと、思うのです。

 強い意志力と穏やかな心を持って、与えられた責務に、力を尽くしてまいります。

 一人一人の生徒を、私は今日、大切に出来たか?
 問いかけを続けつつ。

§5 本紀要について

 本紀要は『研究紀要』という名称ではあるが、「学期完結制(Term Course System)」の成立の過程から現段階までの実践報告といった「報告書」といった狙いで発行するものであることを御了解いただきたい。各教科の報告からは、その教科の特性により、「学期完結制(Term Course System)」の実施に当たっての課題に若干の違いが見られることが読み取れる。それは、97年度からの準備の過程からも感じられたことである。しかし、本紀要にある全レポートを読み通し、以下の2点を強く感じたので、最後に記しておきたい。

 (1) 私学として、一つの明確な「独自性」を、示すこと。SISは「学期完結制(Term Course System)」をその核に据え、SIS独自の教育の実現を目指す。教員にとっては、それまでの教科観、授業方法等を場合によってはドラスチックに変えていかなければならないこともあることが、本紀要からも読み取れる。しかも、求められる自己変革の程度は、担当教科の特性あるいは個々の教員のこれまでの経験等により、様々であると思われる.本紀要に収められた報告からもそのことが見てとれる.「学期完結制」の実施に伴う労苦は決して一律ではないという認識の共有が必要であろう.しかし、そのような教員側の自己変革は、本校のように先行するもののない教育を推し進めようとしていくかぎり、ある意味、必然的に発生する事柄であり、厳しくまた大きなエネルギーのいることであるが、先生方には、これまでの労苦に感謝するとともに、そのことを改めてお願いしたい。出発10年の様々な課題に、とにもかくにも、知恵を絞ってぶつかってきた本校の教員集団なら、この「学期完結制」というシステムを、生徒にとって比類なきよき教育システムに育て上げることが可能だと信ずるのである.

 (2) 私は先に§3で「目の前のこの生徒たちのために実現すること」と書いた。それはそれで自信をもってそう言えるのだが、もう一つ、全く異なる位相のこと、いや、実は本質的には通底する問題意識として、次のようなことを考えている。本校の「学期完結制(Term Course System)」が、日本という国の中で学んでいる多くの生徒にとっても、極めて有効なシステムであり、このシステム、あるいは最低限その底に流れる考え方を採用されるなら、日本の教育は、変われる、と。

 最後に、本「学期完結制(Term Course System)」の実施に当たって、導いて下さった福田國彌学園長、藤沢皖初代校長、ご苦労いただいた全先生方、ご理解いただいた保護者、学校関係者の皆さま、そして、なにより先生方にしっかりとついてきてくれた生徒の皆さんに、校長として、心よりお礼申し上げます。


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