Senri International School (SIS)

研究紀要

第6号(2001)


学期完結制授業実践報告

難波和彦
英語科

1. はじめに

 本校の全ての授業科目が学期完結制に移行すると聞いた時は、正直言って、不安に感じた。語学という科目の性格上、継続して学習することが、大事なことだという考えがあるし、そのような学期完結の制度を私自身他の学校では経験したことがないからである。

 本校の英語科は、千里国際学園そのものの縮図のようなところがある。日本人とネイティブの英語の教員が、おおよそ同じ人数いて、ふだんから、教科の部屋の中でも、英語と日本語の両方が、使用されている。教科の会議は定期的に開いて、日本人もネイティブも一緒になって仕事に取り組んでいるが、教える科目には、それぞれ大きな特徴が有る。おおまかに言ってしまうと、日本人の教員は、英語と日本語の両方を用い、文部省の学習指導要領をベースとした文法や英語と日本語間の訳、などの授業を多く持ち、ネイティブの教員は、英語のみを用い、原書を読み、エッセイを書き、コミュニカティブな活動をふくんだ授業を多く持つ。オーバーラップする部分も多分にあるのであるが、ネイティブの教員からの視点と、日本人教員の視点では、違った見方があると思われるので、今回は、それぞれの立場から、記事を書くことにした。

 この記事を書くにあたって、ひとつの講座の実践報告を書くようにという指示があったので、まずその講座が英語科の全体の講座の中で、どのような位置付けにあるか、講座の内容、そして講座を実施してみての感想について、書いてみる。

2. 英語科のコース

2.1 以前の英語科の科目

 本校は、帰国生徒と一般生徒がともに学ぶ学校であり,帰国生徒といってもそれぞれに言語能力には様々な違いがあるので、それぞれの英語レベルに最適な授業を提供するために、英語科では、プレイスメントテストを行い、(S,A1,A2,H)の4段階に生徒のクラスを分けてきた。

 このうちのSの生徒には、中学の1.2年で文部省の検定教科書を使った授業、中学3年、高校1年で、ReadingとWritingをさらに発展させるために、日本語を介さない読解や、エッセーライティングの集中講義などの授業をした。高校2.3年生で、日本人の教員が、いわゆる文法、訳読といわれる授業、ネイティブの教員が、コミュニカティブな授業をし、その2種類の授業を1セットして受けることになっていた。
AからHまでの生徒に関しては、中学1年から高校1年の間は、基本的にネイティブの教員の授業のみを受け、高校2年、3年で、上記のS生徒と同じく、日本人教員とネイティブ教員のセットになった授業を受けていた。セットというのは、たとえば、1週間のうち日本人教員の授業が3回と、ネイティブ教員の授業が2回といった組み合わせである。

2.2 学期完結型コースの枠組み

 学期完結制に移行するにあたり、問題になったのは、1年間週に2、3回でしていた授業を、どのように1学期間週に5回に変えるかということ。レベル分けをどのようにここに組み合わせいくかということである。中学1、2年生に関しては、今まで通りでよいということだったので、高校の授業の枠組みを新たに考えた。ネイティブの教員の授業は、SとA1用の講座、A1とA2用の講座、A2とH用の講座というように、だいたいふたつのレベルの生徒が取れるような講座と、SからHまでのレベルの生徒が取れるような講座をつくった。Hレベルの中で、さらにOISやIBの英語を受けることができる生徒もいる。

 授業の内容によって、Language & Literature, Language & Cultureそして、Sレベルの生徒が高校で最初にとるCommunicationという3種類のカテゴリーに分けた。ここに、日本人教員も、文部省のカリキュラムにないような、たとえばBilingualism, English Through Musicというような講座を提供した。

 日本人教員が教える高校の英語の講座は、前述したように、高校2,3年生で文法や訳などの授業をしてきたのを、高校1,2年生の間に2つから3つの学期を使って、基本的な部分を扱い、高校3年生の1つの学期を使って、総まとめ的な講座を開くことにした。

 4段階あったレベルを、S,A1でひとつのグループ、A2,Hがもう一つのグループというように高校になった段階で2レベルに分けた。このようにして、文法、訳読を中心とした英語の科目の枠組みは以下のようになった。
    高1、高2    S,A1レベル−Structure      (3つの学期)
            A2,Hレベル−Stylistics     (2つの学期)
    高3       S,A1レベル−Mastery1     (1つの学期)
            A2,Hレベル−Mastery2     (1つの学期)
 つまり、日本人教員の提供する文法、訳読のクラスは、高校3年間11(12)学期間で、3つまたは4つとればよいことになる。

2.3  StylisticsとStructureの講座−文法診断テスト

 文法を教えていく場合、文型から始まって、動詞の時制や助動詞、準動詞といった順番で学んでいくのが、伝統的なパターンであるが、学期完結制の考え方でいくと、この順番通りに教えることはできない。また、講座の回数が限られていて、教える項目もしぼりこむ必要があった。そこで、伝統的な文法の教え方を見直してみることにした。

 英語科で文法診断テストというものを作成実施し、どの項目を授業で扱うかをしぼりこむことにした。5文型、名詞、代名詞、形容詞、副詞、冠詞、助動詞、動詞、時制、準動詞(不定詞、分詞、動名詞)比較、仮定法、話法などについての選択問題を作成。対象者は、4月の段階の高校2年生と高校3年である。新高校2年生−文法訳読スタイルをはじめて習い始めようとしている生徒と、新高校3年生−1年間そのスタイルを習ってきた生徒のテスト結果を比較して、高2と高3であまり点数のかわらない項目、特に最初から高得点のものは、はずす。高2から高3で点数があがった項目は、授業で教えた効果があったと判断して、教える項目とした。ここには、さらにどちらの学年でも点数の悪かった項目も含めた。文法というのは、あくまでも英語を科目として捉えた場合、ひとつの側からの見方に過ぎないので、この文法の授業であつかわない項目があっても、他のネイティブの先生の授業などで、英語に数多く触れることで、学ぶことはできるはずであると考えた。

 この結果、形容詞、副詞といった項目は、S,A1レベルの文法で扱う項目からはずした。A2,Hレベルではさらに時制などの項目もはずすことにした。

 このようにして、教える文法項目を絞り込み、S,A1レベルに関しては、Structure 1,2,3という名称で3回に分けて講座を開き、最初は基礎的なところから、はじめたほうがよいと考え、Structure1を必ず最初にとるように義務づけ、A2,Hレベルは,Stylistics & Translation, Stylistics & Interpretationという名称で2回に分けて講座を開き、ある程度英語の基礎はできているので、どちらを先にとってもかまわないというようにした。
    S.A1クラス    Structure-1 時制、受動態、助動詞、名詞、代名詞、冠詞
            Structure-2 不定詞、分詞、動名詞
            Structure-3 関係詞、比較、仮定法、話法
    A2.Hクラス     Stylistics & Translation  比較、関係詞、仮定法、話法
            Stylistics& Interpretation 不定詞、分詞、動名詞
これらの講座では、文法の項目にあわせて、英日間の訳、語彙力増強についても扱った。詳しくは、次の章で述べる。

3. StructureUの実践報告

 5種類の日本人教員担当の文法訳読の講座のうち、私の担当したStructure-2について、詳しく述べてみることにする。他の講座もほぼ同じ形で、授業が進められた。授業の内容は1.文法、2.語彙力増強3.英文和訳、4.同時通訳、に分けられる。

3.1 文法

 Structure2では準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の項目を教える。この項目は、文法の中でも、特に帰国生徒が、こんな文法習ったことないとか、こんなことは会話では言わないという内容が多く含まれる。確かに、たとえば分詞構文は会話では使わないが、新聞など書かれた英語では、よく使われる表現である。つまり、英語で会話をするときには、問題なくこなす生徒でも、段々とアカデミックなレベルの高い英語を読み書きしていく上で、必要になってくる項目である。教科書を用いたが、導入部分での説明にできるだけ時間をさいた。文法用語や公式のような抽象的なものが先にくるのではなく、どういう状況・コンテクストでその文法が必要になるのかを説明し、できるだけ身近で具体的な例から引用をし、多くの例文にふれるようにこころがけた。自分に関することをその文法項目を使って表現したり、日本語から英語への訳も取り入れ、文法の知識の定着に努めた。

3.2 語彙力増強

 文法と並んで、英語の基礎力となる語彙力をつけるために、Taget1900という単語集を用いた。この講座では、その中の800語をあつかった。英語を日本語に、日本語を英語に変えるだけの “英語ではなくて暗記のお勉強”に終始しないように、同意語・反意語、品詞変換、コロケーションなどについてもチェックする小テストを作成。週に3回のペースで、実施した。とにかくまず、ある語彙をインプットして、その後、例えばネイティブの教員の授業の中で、その語彙が出てきた時に、再確認をすることで、その語彙が自分の本当に使える語彙として定着していく。

 授業の中でも、語の説明、発音などについて扱い、小テストについては、合格点を設け、それに達しないものには追試験を課すことで、語彙が定着することを図った。

3.3 英文和訳

 英文和訳も、この講座の大きな柱となるものである。英語を英語のまま理解して、どんどん読んでいく力をつけるのは、大事なことで、ネイティブの教員の時間にも相当鍛えられているはずであるが、英文の内容がわかるということと、日本語に訳せるというのは、また別の話で、英語を読み、理解して、なめらかな日本語に訳していくのも大切な能力である。この講座では、文法で扱う準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の項目にあわせた構文のパターン別に、訳の練習をした。課題として提出させることで、評価をした。

3.4 同時通訳

 これは文法ベースのこのStructureの授業の中で、すこし毛色の変わった内容で、テープのlisteningから始まる。The NEWSという最新のニュースを授業で使いやすいように編集した月刊の教材があり、英文を意味の切れ目ごとに区切って、そこにポーズをおいて読まれたテープがついてくる。

 この切れ目ごとに、テープの後について、日本語の訳を口頭で言っていく訓練をする。英文を頭からどんどん訳していく、いわゆる同時通訳の手法である。速読、3.3の構文での訳の練習とまた違った角度からの訳の練習、もちろんリスニング力の強化、そして時事英語に特有の語彙に触れるという様々な面をもった活動となった。講義を聞くだけの形式ではなく、自分で声を発するので、授業の中でのアクセントにもなった。

3.5 評価

 単語テスト、訳の課題、文法の小テストなど、毎回のようになんらかのテストが実施されるので、定期テストというものは実施しなかった。準動詞の各項目(不定詞・分詞・動名詞)ごとに、中テストとでも呼ぶべきようなものを行ったが、一度の大きなテストで評価するという形にはしなかった。学期中を通じての、中テスト、小テスト、授業への参加度、課題の提出、など数多くの項目について評価し、総合的に、学期を通して努力をしつづけたものに高い評価をつけた。

4. 学期完結制の感想

 利点-ポイントをしぼらなければいけなかったことで、たとえば準動詞について、より深く、多角的にあつかうことができた。 また、教員としては、準動詞の授業ばかりを連続してすることになり、生徒の疑問点、よく間違えるポイントなどがより明確になる。生徒も科目数が少ないので、集中できる。宿題・課題などを出しやすい。

 今後への課題-英語科としては、ネイティブの教員の授業と日本人の教員の授業をバランスよくとることが、重要だと考えていて、以前はそれをこちらで組んでいたのが、生徒が自分で選択する形になると、そうたやすくバランスよくいかない。ひとつには、全ての科目がいつでもとれるようになっているわけではないし、他の科目とのかねあいもあるので、うまくとれないのである。他の面からは、卒業後の進路のことが気になりすぎてか、例えば高校2年生3年生の2年間、日本人の教員の授業のほうばかりを集中してとってしまい、ネイティブの教員の授業をとらないということが、起こりうる。そうすると授業の中で2年間英語を話さないということがあり得る。speakingのskillは、運動と同じで、使い続けなれば落ちてしまうし、これではせっかく多文化・多言語の環境を体験できる本校に入学した意味がない。

 生徒が自由に選択できるというこの制度の最大の特徴を活かしながら、ネイティブの教員と日本人の教員の講座をバランスよく取るようにするには、生徒への説明の機会をじゅうぶんに持ち、英語科の考えを生徒にわかりやすく伝えていかなければならない。

 そこで、英語科では最初の年度は、学期完結制の説明ビデオを作り、次の年度は、ハンドブックを作り、生徒に英語科のコースについてのわかりやすい説明をするように努力してきた。今後もこのようにして、十分なオリエンテーションをすることが大切だと考えられる。


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