Senri International School (SIS)

研究紀要

第6号(2001)


「自立と自律」を目指して

廣田文野
生活科学科

1.学期完結制のもたらすものは?

 生活科学T〜Wのほぼすべてにおいて、生徒は毎日、生活科学のクラスを受ける。生活科学は卒業必修単位であり、担当教員は2名である。生活科学にとって、学期完結制がもたらすものは一体何なのか?学期完結制だからこそできる事は何なのか?この一年、私はその答えを模索し続けたといえる。

 生活科学は文字どおり“生活”に密着した教科である。しかし、“家庭科”という名称が歴史的に生み出したイメージを拭い去ることはなかなか困難であり、多くの生徒が生活科学に求めているのは「作る」「食べる」という“生活技術”に直結する内容であることは日々感じざるを得ない。

 しかし生活科学が授業のテーマとしているのは“自立そして自律した生活人”である。その自立心や自律心を養うために必要と考えることを授業の課題として取り入れていくのであり、それは決して、調理実習や被服製作にとどまらない。以下に、この一年を通して、私なりに遣り甲斐を感じ、学期完結制の特徴を活かせたという達成感のあったクラスについて報告する。

2.9年生での取り組み

 9年生は週あたりの生活科学の時間数が7時間と千里国際学園の中で最も多い。2人の担当教員が2分割して教えている。7時間のうち4時間が一般的には消費者教育と呼ばれるもので、雑誌、テレビコマーシャル、音楽、新聞などのメディアや店に並ぶ商品についている品質表示などから我々に向けて発信される情報を正確に判断できる消費者を目指している。 残りの3時間は環境問題をテーマとして自分を含めた地域の環境に配慮した消費生活について考える時間をもっている。

 現在、私は後者を受け持ち、試行錯誤しながらではあるが様々なプロジェクトを取り入れてきた。その中でも、9年生の冬学期に取り組んだ「フリーマーケット」への出店は印象深い。

 同じ時期、私は、11年生の学年旅行に携わっていた。“生徒の手作りの旅行を”と活気づいている生徒達のミーティングに参加している中で、私は本校の生徒の発想や企画のおもしろさ、自発性の高さ、与えられられるより生み出すことに喜びを感じる性質を目の当たりにし、この発想を授業に取り入れる事も出来るのでは…と考えていた。つまり、“生徒の手作りの授業”である。

3.生徒が作る授業

 「3Rって知ってる?」こんな問いかけから私の授業はスタートした。3Rとは環境問題、主にゴミ問題に主眼をおいたスローガンの一つで、”Reuse” “Reduce” “Recycle”の頭文字をとってゴミの減量を訴えている。授業の中では今まで、『ゴミをなるべく出さないで、調理実習をしてみよう!』、『地域のゴミを調べよう!』=“Reduce”、『廃油から石鹸を作ろう!』、『牛乳パックを再生紙に!』=“Recycle”に取り組んできたが、”Reuse”すなわち『使っていたものを有効的に再使用すること』を体験的に学習できる題材に巡り合えていなかった、いや、私の“発想”にはなかった、というほうが正しいであろう。

 しかし、生徒達は答えてくれた。「先生、フリマしよう!!」…驚きだった。当初、学校内でフリーマーケットという案もあったが、外に出て本格的に「店」を出したいという生徒の希望が大半であり、その実行に向けて準備が始まった。

 希望者だけではなく授業としてフリーマーケットに出店するからには条件や制約がある。以下に挙げるのが私が生徒達に提示した原則である。
    @ 準備には全員参加(出店当日は土曜日のため希望者のみ。)
    A 準備の過程でも”Reuse” “Reduce” “Recycle”の精神で取り組む。
    B“Reduce”の体験が主たる目的であり、けっして収益金が最優先ではない。

 尚、フリーマーケットの収益金は「フィリピンの子どもたちに家を建てよう」というOIS12年生の取り組みに寄付した。

 この取り組みの中で特徴的なのは、単に出店準備に関わる仕事を分担するのではなく、あくまでも「店」であることにこだわって、会社組織を作ったという事だろう。ちなみに、私には“相談役”というポストが与えられた。
    社 長…すべての業務の統括、フリマ会議の司会    
    副社長…社長の補佐    
    企画課…出店場所の調査、市場調査
    経理課…商品の値段設定、予算管理、収支報告
    営業課…商品管理、商品の作成
    広報課…店のPR活動、フリマ会議の議事録

 もちろん、会社の実像とは随分かけ離れた代物ではあるが、各課に必要な人数も、各課の仕事内容も、課長をおくことも全て彼ら自身の“発想”をもとにディスカッションしながら作られた組織である。ここには、フリーマーケットへの取り組みに対する熱意のみならず、「遊び」も感じられ、そのことが尚いっそう「自立」した作業を促したのだと考えている。

 インターネットを駆使し、時期的にも予算にも地理的にも条件に見合った開催場所を探し出し、提案した上で、商品の内容やお客のニーズを知るために…と事前に他の開催地へ足を運び、会議ではビデオによって報告をした企画課の生徒達(社員?)。最低10000円の収入を見込んで500以上の商品に値段をつけたのも、エクセルを見事に使いこなし、商品名から値段が探せるリストを作ったのも経理課。学校中から毎日ボックスに寄付される商品を集めてまわったり、持参したジーンズをこつこつ手縫いし、スカートやかばんに変身させたのは営業課。そして、ポスター作成やHRをまわってフリーマーケットをPRし、使わなくなったまな板で店の看板を作ったのは広報課である。

 出店までのプロセスは決してすべてがスムーズだったとは言えない。後半、課によって仕事量に差が出てきたために手持ちぶさたになる生徒もいた。課のなかで意見の対立が生じたり、課同士がうまく連動せず、作業が沈滞する場面もあった。他教科の課題やクラブとのジレンマに苦しんでいる生徒も見受けられた。

 これらは予測可能な事態ではあったが、出店まで準備期間が1ヶ月という短い期間であり、十分なケアが出来たとは言い難い。焦りが先走り、誰も立ち止まって考える暇がなかった。今回は幸いにして事無きを得たが、問題を引き起こしたり、プロジェクト終了後にしこりを残す可能性も否めない。自由な発想のもとに授業を展開するには、相応の準備と心構えが必要な事を改めて痛感した。

4.出店

 こうして、出店当日を迎えた。たくさんの方々の協力により商品の数は500を超え、前日は保護者のボランティアにより商品を車で運ぶ事も出来た。2000年2月29日(土)、大阪城ドームにて日本フリーマーケット協会により「平成楽市」と銘打ったフリーマーケットが開催され私たちも出店する運びとなった。生徒達は病欠2名を除く21名が参加した。10時開店にあわせて、朝8時30分に会場に集合し、店作りに取りかかった。私たちに与えられたブースは3×4メートルの小さな長方形だった。予想外に狭く、商品の陳列に困り果て立ち尽くす生徒もいた。しかし、始まってしまったのだ。後は、売るしかない。収益を目的としていない我が店の価格は他店と比べて、はるかに低い。また、企画課のある生徒が発見したのは他店よりも店員が多く店に群がる人数も多い、つまり「さくら」効果がある。このことが功を奏して、売れるわ売れる。売上げは50000円を超えた。(経費をのぞくと純利益は12000円程であったが。)生徒達も店員としてかつ客として存分にフリーマーケットを満喫したようである。そして、夕方6時、無事閉店となった。

 以下に実施後の生徒達の感想を載せる。(一部省略)
    生徒A:楽しかった。値段交渉やお客さんの呼び込みに自分の新しい才能を見出した。
    生徒B:フリーマーケットを利用する人があんなに多いとは知らなかった。
    生徒C:企画から準備までやったので今度は自分でも店を出せる。
    生徒D:もっと時間をかければ店のディスプレイにもこだわれた。
    生徒E:授業全部をフリマに使って、いい条件のフリマに出店し、規模を大きくしたい。
    生徒F:リメイクしたものも売れる。着なくなったものも捨てないでおいとこう。

5. 学期完結制だからできること

 私がこの授業を通して見出した学期完結制の利点は以下の3つである。

    @ 各タームにおいて『旬』なモチーフによって授業を展開できる。
    A 一つのテーマを集中して徹底的に取り組む事が出来る。
    B 毎日授業で会うのでテーマについての意識も高めやすい。

 反面、教師と生徒との親和関係が確立しないまま、授業を進めて行く必要があるため、生徒の内面にふれる恐れのあるようなテーマは題材として取り入れる事が躊躇される。先にも述べた様に生活科学は生活と密着した教科である。7年生では食べ物と自分の健康について学び、9年生では自分を取り巻く環境に目をむけ、11〜12年生では社会の一員としての自分をもう一度見詰め直して「自立そして自律」するスキルの獲得を目指す。家族のこと、からだの事、将来のこと、友達の事、そのどれもが生きて行くことと切り離せないテーマであり、そうある限り生活科学でも取り入れたいテーマなのである。しかし、一つ一つのテーマを掘り下げるには60日という期間はあまりに短いように思える。今後はいかにして限られた期間の中でじっくりと自分を見詰めるチャンスをもてるかということを課題として授業を展開したいと考えている。そして、そのときやはり生徒の「発想」は私を助ける鍵になることは疑いようの無いことである。


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